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競走馬のトレーニングについてのちょっと長いお話

公開日: : 最終更新日:2013/09/23 未分類, 競馬全般

 


 

JRA美浦トレーニングセンター(トレセン)所属元調教助手として、調教についてお話して参ります。これはまったく当方の主観にてまとめておりまして、ここに記して居りますやり方や考え方が調教の全てではありません。そちらを最初にお断りして、お話をしてみます。

競馬場の朝は、まだ夜も深い時に始まって行きます。夏時間で5時馬場開場。冬時間が7時開場となりその数時間前から静かに始まって行きます。週末の競馬開催日は更に早く馬場が開場し、各担当馬の調教を終わらせ、当該週出走する他の担当馬を馬運車に乗せ、各競馬場に散って行くと言った感じです。

 

調教は、基本的に前運動(ウオーミングアップ)から始まります。おおよそ各馬小1時間ほど背中に跨がり、運動場、森林馬道、等をあまり馴れ合いと成らない様、変化させ刺激を与えながら色んな場所を並足(徒歩)で廻って行きます。まだ日が上がって無い時間の為、森林馬道などに行くと真っ暗な状態で、そんな環境の中を、馬をグングン並足させて行きます。前運動を入念にする意識を持つのは、一般的に考えられている、思わぬ筋肉や骨のアクシデントに見舞われる可能性を薄めるためです。

それと共に前運動で大事な事は「並足で行う」と言う事です。静かに有酸素運動を促し、心肺を鍛える事が大事に成ります。またここで乗り手が行う意識として、馬の並足のフォーム(形)となります。実はこの並足のフォームは、ギャロップ(襲歩)でのフォームに直結するんですね。ギャロップとは通常競馬での全速力時の走り方の事ですが、これが面白い事に「並足」に潜んでいます。この「並足」を疎かにして、大レースを勝つ厩舎を知りません。それほど皆「並足」のフォームにもの凄い意識を向け、馬上で調教をして行くのです。「並足」に始まり、「並足」に終わると言っても過言ではありません。とにかく走る為の多くの要素が並足に集約しています。

 


 

ウオーミングアップ中暗い道の足下に猫や狸なんかが表れ、しかも跨がっている人間より数倍速くその異変を関知する馬ですので、こちらの予想を超えたスピードで容赦なく横に瞬間的に飛んだり跳ねたりしますが、跨がっている人間は黙々と冷静に跨がり続けています。これは個々の馬の持つ性格を感じるにも有効な馬の動きです。臆病な馬ほど何かの小さい物音で吹っ飛んでしまいます。それこそ馬乗りのスキルが低いとあっという間に落馬してしまいます。

これは馬に乗らない方の想像を遥かに超える動きです。馬は元々草食動物で、集団で暮らす生き物なので、とにかく基本臆病で、そして取りあえず横の馬の動きと同じ動きをします。臆病な一頭の馬が異変に気付き、その一頭がその場から逃げ出せば、他馬に連鎖的にその動きが乗り移り、その場に居る馬の全て(所属厩舎など関係なく)が逃げ出す行動を取ります。これはまったくの本能ですね。馬がこの行動を持ち得なかったら、現代には存在出来なかったのでしょう。肉食獣に食べられてしまうんでしょうから。

これは多かれ少なかれ人間も同じ本能を持っていると感じますが、それはさて置き。フォームに意識を持ち、急激な動きを許容しながら、並足を進めて行きます。トレセンの森林馬道は地形を生かしたアップダウンが続き、季節毎に趣きを替え、変化に富んだ作りと成っています。そこにもし乗馬の素人

さんが入り込んでしまったら、泣いてしまうかもしれませんね。起伏が通常の乗馬クラブの外乗りコースとは、雲泥の差でただそれ位で無ければ、世界で活躍するアスリート達の運動には成り得ません。馬は面白い事に、前から近寄る馬に驚いたり、怖がったりします。これは慣れの問題でしょうが、でも最初大丈夫でも後から駄目に成って行く馬も居るので、一概に言えない所です。

とにかくトレセンに入厩する馬は、まだ若く経験の浅いサラブレッド達です。心も肉体も本当にどんどん変化して行きます。人間の子供とまったく同じ印象です。個人的に一番変化を感じるのは、競馬に出走してからです。

そして特に感じるのは、競馬を勝ち続けている時です。オープン馬などは、毎日変化しているんじゃないかと感じさせます。勝ち続けている馬は、かなり競馬のイメージで普段から行動してしまうと言う事です。突風が吹いた時に、一瞬ダッシュを見せたり、近くに他馬が来ると怖がったり、それらは競馬での状況をそのまま感じている様に思えます。

 


 

競馬では時速50kmほどのスピードの世界が在ります。自動車に乗って時速50kmはそんなに早く無いのかもしれませんが、バイクに乗る人なら分かると思いますが、50kmでの「音」はかなりの風切り音となります。ゴール版を過ぎた馬上でジョッキー同士が会話する姿を競馬でも御覧に成った事があるかと思いますが、ジョッキー同士はかなりの大声で話をしています。小声など、その風を切る音に完全に吹き飛ばされます。

 

その風切り音が、「競走馬」と「ジョッキー」の世界でして、普段生活している中では見当も付かない世界です。その印象、イメージを普段まで反映させてしまう、つまり突風など吹こう物なら、耳に当たる突風は、競馬を回顧させ、瞬間的に反応してしまう行動を取るのです。近くに他馬が来ると怖がるのは、激しい「競馬」を彼らに思い起こさせます。身体がぶつかり合ったり、鐙(騎手が足を乗せる器具)、蹄鉄がぶつかり合い「カチカチ」鳴ったり、風切り音が凄く、ジョッキー達の怒号や、鞭の音、馬場を踏みしめる音と振動。そして何と言っても観客の声援。これらは彼らに尋常では無い状況をインプットさせてしまうのです。

 

それらは特にオープン馬の行動に大きく影響します。彼らの多くは競馬での非常に厳しい状況を、身体で体感しているのです。当然オープンレースに近づけば近づく程、レース環境は厳しくなり、オープン馬に成長する頃には、余計な事に体力を使わずどっしりとした心と、状況に対応しようとする繊細な神経の大きく分けて二つの矛盾した心を持ち合わせる様になっているのです。当方自身は、個人的にその心をとてもとても尊敬しています。そんな事を思いながら、ウオーミングアップが続いて行きます。

 

 

 

 

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